蓮沼執太を紹介する
蓮沼執太は、かつてラップトップ・コンピュータによる作品をリリースしていた。そのため「電子音楽家」と言われることもあるが、現在蓮沼が主宰する「蓮沼執太チーム(Team Shuta Hasunuma)」や「蓮沼執太フィル(Shuta Hasunuma Philharmonic Orchestra)」といったグループでは、いわゆるラップトップ・ミュージック、エレクトロニカといったジャンルとは趣を異にした音楽を演奏している。人力によるバンド編成、もしくは大人数のアンサンブルである。蓮沼はキーボードとヴォーカルを担当し、演奏中にはコンダクターのようにも振る舞う。ライヴを見ているとその様子が楽しい。演奏しているのが楽しそうに見えるグループだ。
2006年、まず、米国のレーベル、ウエスタン・ヴァイナル(Western Vinyl)よりファースト・アルバムが発表され、翌年には二枚目のアルバム『OK Bamboo』を同レーベルより発表。ようやく三枚目『HOORAY』にして日本のエレクトロニカ系レーベルのプログレッシヴ・フォーム(PROGRESSIVE FOrM)からの発表となる。これは蓮沼の作品の中ではもっとも個人的、かつコンピュータ音楽に接近した作品だ。それもそのはず、自分が使っていたコンピュータがクラッシュしてしまい、その音楽データを救出して作られたのだそうだ。アクシデンタルな作品といえよう。そのアクシデントから、続く四枚目のアルバム『POP OOGA』をHEADZ/WEATHERからリリースし、そこから一転、バンド編成でフォームされた「蓮沼執太チーム(Team Shuta Hasunuma)」を結成。以降、同レーベルを拠点にアルバムやミニアルバム、ライヴをコンスタントかつ精力的に展開している。
文字で書くとあたり前すぎて何の変哲もないように思えることだが、蓮沼はいつもなにか考えている。次の手を考えているような気がするのだ。特に時間に追われているようなそぶりなどまるで見せないのだが、いや実際に暇なのかもしれない、しかし、蓮沼はいつもなにかやっているようだ。時間を無駄にしていないように思わせる。なにかはなにかの前ぶれ、もしくは予行演習、あらゆるものが吸収され、それらは無駄なくなにかに実を結ぶ。もちろん、苦悩や失敗だってあるかもしれない、でもそれを感じさせない。そんなところはいまどきの若いやつぽくない。
蓮沼は、音楽をすることにとどまらないなにかを求めているようだ。音楽が音楽でしかないことに飽き足りなくなっている。さらに音楽となにかと結びつけることによって、なにか場のようなものを生み出そうとしている。もちろん音楽は音楽でしかないし、蓮沼ができることはいまのところ音楽しかない。しかし、音楽が音楽としてしか機能しないことへのもどかしさをどうにかしたいと思っているのか。60年代には演劇や音楽や美術や映画や文学やその他はとても密接に関係していた。なにか同時代の磁場のようなものが渦巻いていた。しかし、いまはそういう時代でもない、ような気もするが、シラケているよりはとでも言うように、あえてフィクサーの役を買って出ようという意気込みが蓮沼から感じられはしないか。
畠中実 NTT インターコミュニケーションセンター(ICC)主任学芸員