直接的なコミュニケーションが制限される日々の中で、ふとこの数年間で訪れたいくつかの街のことを思い出しています。華やかで少し権威的な振る舞いを感じた街、悲しい歴史と正しく生きたい思いが混沌としていた街、アーティストとして活動を始める前の友人たちと過ごした何もない街、毎日道端に人間ドラマが転がっていた映画のような街。それぞれの場所で互いの違いをおかしがり、おしゃべりをして、友人ができました。 同じ時を過ごす全く別の場所にいる人々の感覚をすくい取り表現していくことができればいいなと思っています。そしてまた会いに行きたいです。
神奈川県立近代美術館 葉山にて音楽コンサートシリーズ『MUSIC TODAY HAYAMA』と展覧会『フェイシズ|FACES』を開催する予定でしたが、中止となってしまいました。とても残念ですが、今は静かにすごす時期です。コンサートと展覧会のコンセプトは奇しくも『接触』でした。この言葉は、近年の自分のテーマでもあったわけですが、COVID-19 以前と以後では当然ながら、その意味も変わってきます。
コンサートシリーズ『MUSIC TODAY HAYAMA』は計4回。大原大次郎、イルリメ、寺尾紗穂、僕によるTypogRAPy。鈴木昭男、Tomoko Sauvageによるパフォーマンス。マージナル・コンソートによる3時間公演。そして僕とU-zhaanによる即興セッションライブにゲストにKOM_Iをお呼びする予定でした。「あー、やりたかった!」というのが正直な思いですが、こうした構想もまた違う機会に、違う形で開催できるように頑張ります。
展覧会は『フェイシズ|FACES』というタイトルで「直面する」という意味合いでした。接触から派生していった言葉で、ほとんど同じ意味として考えています。磯谷博史、エレナ・トゥタッチコワ、岡田理、蓮沼執太、吉村弘による展覧会でした。作家たちで会場下見を行なって、意見交換をしながら、全員で作り上げるような展覧会を構想していました。
また、グラフィック・デザインを担当した大原大次郎、石塚俊によるグラフィックを公開します。
いずれにしても、静かに待つ時間を与えられていると感じています。じっくりと過去を見つめ直すことが大切です。新しい視点が必要になる時代がやってきます。僕たちはいつも思考しています。今は、次なる発表のための準備をしておこうと思っています。
蓮沼執太
FACES
2020. 4/25 – 5/4
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2020.5/2. 5/9. 5/16. 5/23
MUSIC TODAY HAYAMA
FACES / MUSIC TODAY
神奈川県立近代美術館 葉山 にて開催
詳細は4月頭にこちらのサイトで発表致します
It will be held at The Museum of Modern Art, Hayama
For more information, it will be released on this website in the beginning of April.
リサーチ、制作、生活は、私にとって使い分けられない関係にあるのだが、全てを繋ぐのは歩くことだと思う。観察し、思考し、想像するために、人間であり続けるために歩く。
今回の制作のためには、これまで数年の間、北海道・知床半島で旅と制作と遊びの仲間だった太陽くんという少年に、彼が今住んでいる山形県の村から、京都へきてもらう予定だった。彼と一緒に、鴨川でフィールドワークをし、映像作品を作ろうと考えていた。世界という見慣れた風景の中には、未知なもの、得体のしれないものは確かに存在すると思う。子どもと歩くときに生まれてくる音、リズム、イメージ、物語の中で、それと接触できるのではないか。歩きながら行うフィールドワークを形にして、美術館の空間の中で体験できるようにしたいと考えていた。
今、世の中は自由に移動ができなくなり、京都と山形と知床という場所を、鴨川で、そして葉山の海で合流させることが実現できなかった。遠い場所へは行けないという不自由な状況で、今だからこそできることはなんだろう。人に会わず森だって歩ける。家の中で今まで気が付いていなかった場所を見つけることもできる。心の中で遊ぶための森を持つこともできる。人間には想像力があるのだから、不自由の中で無限に自由の可能性を持っているだろう。今は、このように経験と想像力が接触する時期なのかも知れない。
頭を動かし、手を動かし、そして歩き続ける。
エレナ・トゥタッチコワ(Elena Tutatchikova)
素晴らしいイベントを本当に楽しみにしていました。 出身地である神奈川県で初めての、日本では3年ぶりとなるはずだったコンサート、それも葉山の海の前で、ということもあり、 正直誘って頂いただけでも感慨深いものがありました。 今現在フランスでのロックダウン中、変な夢の中のような生活を送っているせいか、 中止といわれても、イメージしていたものが消えません。 目が覚めたら全部夢だった、というような、不思議な感覚です。 皆様とお会い出来なかったけれども、それでも繋がりを感じています。
この与えられた時間の先に 未知なる何かが見つかる気がしています。
2020年5月16日の神奈川近代美術館 葉山に於けるマージナルコンソートは、新型コロナウィルスの感染を回避する為に中止となった。場所と時間を決めてメンバーが集まりマージナルコンソートは起こるが、観客はその場所と時間を共有する中で各々異なる体験をする。そして様々な発見をするだろう。その為の場所として神奈川近代美術館 葉山は素晴らしく魅力的だ。新型コロナウィルスと人類の共生を目指して。パフォーマンスをしたいと願う。
マージナルコンソート/今井和雄 (Marginal Consort / Kazuo Imai)
(開演に先立ち、静かに待つ時間のために)
「なにか」と「なにか」を糸で結んで天井から吊るすと、かんたんなモビールになります。モビールはくるくるまわって、たえず形を変えながら動き続けます。ブルーノ・ムナーリは、モビールのことを『役に立たない機械 (Macchina Inutile)』と名付けたのですが、手遊びしながらその結びつきやバランスや関係性などを観察することや、眺めながら心が踊ったり平穏な気持ちになることには、とっても役に立ってしまいます。もちろん静かに待つ時間のためにも。そして、それはとても音楽的なものでもあるのではないかと感じます。
2011年の夏に、蓮沼執太くんが主催した「ミュージック トゥデイ アサヒ」のフライヤーを担当しました。それから約10年後のある晴れた朝に、葉山の美術館と海で蓮沼くんたちと一緒に今回のモビールの撮影を行いました。瑞々しい写真は後藤武浩さんによるもの。写真やグラフィックの中で音楽的ななにかが息づくこと、そして静かに待つ時間が明けて開演を迎え、演奏の中で像が結ばれることを願いながら、このモビールたちは常に動き続けています。
大原大次郎(Daijiro Ohara)
海を見渡せば、あらゆる場所からやってきた水の集積が絶えず流動している。海辺を歩けば、地面と自分の身体が触れることで重力の存在を感じる。海から陸へと目を移せば、地上から這い上がるような山が広がる。ふと立ち止まりそこに風が吹けば、木々の声が聞こえる。神奈川県立近代美術館 葉山に眠る作品を想像すると、僕達の知らない時間が流れていることに気づく。ここ葉山にはたくさんの接触を感じます。『FACES|フェイシズ』は葉山館の展示室に蓮沼執太によってセレクションされた作品が並びます。会期中には展示室内でイベント『ミュージック・トゥデイ・ハヤマ』が計4回にわたり開催されます。この春、葉山を訪れる人々に多彩な接触がありますように
蓮沼執太
企画概要
FACES
会期:2020年4月25日(土)- 5月24日(日)
出品作家:磯谷博史、岡田理、エレナ・トゥタッチコワ、蓮沼執太、吉村弘
MUSIC TODAY HAYAMA
日程:2020年5月2日(土)/ 5月9日(土) / 5月16日(土)/ 5月23日(土)
5月2日(土)『TypogRAPy|タイポグラッピィ』
出演:イルリメ、大原大次郎、蓮沼執太、寺尾紗穂
5月9日(土)『吉村弘に触れて』
出演:鈴木昭男、Tomoko Sauvage、蓮沼執太
5月16日(土)『マージナル・コンソート 3HOURS』
出演:Marginal Consort (今井和雄、越川T、椎啓、多田正美)
5月23日(土)『セッション』
出演:蓮沼執太 & U-zhaan ゲスト:KOM_I
会場:神奈川県立近代美術館 葉山
主催:神奈川県立近代美術館
企画/構成:蓮沼執太
プロジェクト・マネージメント:柴田とし
FACES /アートディレクション:石塚俊
MUSIC TODAY HAYAMA /アートディレクション:大原大次郎
写真:後藤武浩
Webデザイン:石黒宇宙 (gm projects)
OUTLINE
FACES
Dates:25 April – 24 May, 2020
Artists:Hirofumi Isoya, Shuta Hasunuma, Shizuka Okada, Elena Tutatchikova, Hiroshi Yoshimura
MUSIC TODAY HAYAMA
Dates:2, 9, 16, 23 May, 2020 (every Saturday)
Sat., 2 May “TypogRAPy”
Performers:Illreme, Daijiro Ohara, Shuta Hasunuma, Saho Terao
Sat., 9 May “Facing ‘Hiroshi Yoshimura’”
Performers:Shuta Hasunuma, Tomoko Sauvage, Akio Suzuki
Sat.,16 May “Marginal Consort 3HOURS”
Performers:Marginal Consort (Kazuo Imai, T Koshikawa, Kei Shii, Tada Masami)
Sat., 23 May 『Session』
Performers:Shuta Hasunuma & U-zhaan Guest: KOM_I
Venue:The Museum of Modern Art, Hayama
Organizer:The Museum of Modern Art, Hayama
Curation:Shuta Hasunuma
Project Management:Toshi Shibata
Faces / Art Direction:Shun Ishizuka
Music Today Hayama / Art Direction:Daijiro Ohara
Photograph:Takehiro Goto
Web design:Rui Ishiguro (gm projects)
毎日、自宅のベランダから夕日がよく見えます。昨日と今日とで僅かにずれた位置に沈み、色彩は驚くほど揺らぐ。そのベランダで朝食をとる。すると目玉焼きに空が映りこむ。とろっとした黄色にわずかに薄い水色が混ざる。当然のこと。当然なのですが、しっかりとわかっていなかった。いや、ただ忘れているだけ?それすらも思い出せないでいる。かつての当然はすっかり迷子になってしまった。夕日と目玉焼きが、忙しくしていた僕に、今になって何を言っているんだと、冷ややかにつっこんでくる。
進歩の下心や、美意識のない態度に、目が覚め、心が醒め、体も冷める。近い将来、個々人の価値観はよりはっきりとした声となり、過去の歴史の中で繰り返されてきたように、社会は良い方向にも、そして悪い方向にも速度を増して急激に動くのかもしれない。思考も活動も、効率よくプロセスを省いてきた賢い超近代の影を、忘れずに記憶しておこう。
葉山に集まるはずだった表現が、どんな時間と、どんな繋がりを創ったかを想像すると、その自由の大きさに全身から力が抜けてしまいます。今は、家にいて微視的に遠くをみる。そういうタイミングだと捉えています。いつかこの素晴らしいプロジェクトをみんなと体験できる日を待ちながら。
磯谷博史(Hirofumi Isoya)