「スパイラル・アンビエント」
作曲、演奏、監督:蓮沼執太
録音:葛西敏彦
パフォーマンス、振付:島地保武
演奏:石塚周太、小林うてな、ゴンドウトモヒコ、徳澤青弦
詩、朗読:山田亮太、大崎清夏、白鳥央堂、暁方ミセイ
舞台美術:佐々木文美
宣伝美術:須山悠里
制作:清宮陵一
日程:2016年3月11日 19:00〜
会場:スパイラルホール
前売券:3,000円
前売券発売日:2月6日(土)
前売券購入:e+(イープラス)
当日券:3,500円
ご来場者全員に、本イベントのポスターから切り出して制作したスペシャル・ダウンロード・カードを配布いたします。当日録音した中から、そのカードをお持ちでないとダウンロードできない曲を1曲ご用意する予定です。
*前売券の販売状況によって、当日券の発券を行わない可能性があります。
*全席自由/開演30分前より整理番号順のご案内となります。
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バイノーラルマイクとDSDでスパイラルホールを空間ごと録音する
蓮沼執太です。2016年3月11日スパイラルホールで『スパイラル・アンビエント』と題した公開レコーディングを行います。昨年にサウンド&レコーディング・マガジン編集人の國崎晋さんからオファーを頂き、ずっとこのアイデアを考えていました。今回の公開レコーディングは、スパイラルホールの空間そのものを録音していこうという試みです。
僕のプロジェクトのひとつに「アンビエント・シリーズ」というものがあります。これまで『六本木アンビエント(with 石塚周太+木下美紗都+福留麻理)』、『葉山アンビエント(with イトケン+岩渕貞太+千葉広樹+比嘉了+和田永)』、『松原温泉アンビエント(with U-zhaan)』、『丸の内アンビエント』というかたちで行ってきた、普段音楽が立ち上がらない場所で、その環境に溶け込むようにパフォーマンスをするというプロジェクトです。オーディエンスがひとつの音像を捉えるのではなく、空間を移動することによって異なる聴取体験を作り上げるものです。さらに僕は作曲という手法を様々なメディアに応用し、映像、サウンド、立体、インスタレーションを発表し、個展形式での展覧会を行っています。こちらも展覧会という形式で音楽作品をインストールすることで、聴取体験をオーディエンスに委ねています。
このような、いわゆるコンサート形式から外れている音楽上演では、ドキュメント記録を収めることは非常に難しく感じています。ステレオという2つの出力の概念を超えている形態であり、視点(聴点)が無数にある状態においては、記録される手法やメディアも当然変わっていかなければいけません。
今回公開レコーディングを行う演目も上記のように、いわゆるコンサート形式から外れてる部類のアプローチです。スパイラルホールの中央にバイノーラルマイクを設置し、DSDレコーディングを行います。つまりスパイラルホールを360°で空間ごと録音していこう、という試みです。
ハイレゾリューション録音という方法で得られる音は、何も良い音というわけでは無いと思っています。なんと言うか、ゆったりと広い音の器の中に、隅々まで深くきめ細かいサウンドが記録されていく印象があります。自然ではあるけれどもマイクというフィルターを通るので、真実では無いような…。特にDSDフォーマットでは、実際に起こる音だけでなく、音の気配をもレコーディングしていくような空気感さえも感じます。僕がフィールド・レコーディングをするときにDSD(2.8MHz)のフォーマットを使っている理由はそういうところにあります。
そして肝心な内容ですが、まずはザ・フォーサイス・カンパニーでの活動をはじめ、国内外で作品を発表してきたダンサーの島地保武へ、数種類のリズムを送り、そこからコレオグラフ(振付)を制作してもらいました。あるルールを設けることでそのコレオグラフの中から旋律を作曲します。作られた単旋律を演奏するのは、石塚周太(ギター)、小林うてな(スティールパン)、ゴンドウトモヒコ(ユーフォニアム)、徳澤青弦(チェロ)からなる4名のアンサンブルです。コレオグラフィーと作曲の関係性は歴史的にも様々なアプローチがされていますが、コレオグラフに引っぱられるようにメロディーを作曲し演奏され、その踊りもパフォーマンスされることで発生する新たな関係性を探っていきたいです。さらにそこに、詩人の山田亮太を中心に大崎清夏、白鳥央堂、暁方ミセイの3名の朗読が重なります。
会場には、僕が制作してきたアートピースも数点インストールし、音空間を変調していきます。ダンサーの島地保武がパフォーマンスすることで自然と音が発生するわけですが(先ほどハイレゾ録音は気配をも収音するという言い回しをしましたが)庭を造るような感覚で気配を作り出したいと考えました。過去の展覧会では作庭のようなアプローチで作品制作もしてきたのですが、舞台美術家の佐々木文美と共にキネティック的ではない音が生まれる気配を作り出そうとしています。
バイノーラルマイク1本でのセッティングとハイレゾリューション録音でスパイラルホール空間全体を記録していくことを基準に、演奏者の配置やパフォーマンスの移動による音の位相、音響、音色、ノイズなどのあらゆるファクターを考慮して、全体を組み立てていきます。多様性の擁護や偶然性の導入という考え方を捨て、空間的に配置されたパフォーマーのサウンドや動きは完璧にコンポーズされます。この表現に集う各ジャンルの行為自体をすべてモノフォニックにすることによって、音響的なアプローチの実践をより鮮明に描いていきたいと考えています。