もう10月も半ばをすぎて、芸術の秋を楽しむ余裕も無く、時間がすぎていきますね。って言っても、そんなにネガティヴな気持ちでも無くて、毎日亀のようなスピードで色々な制作を進めてます。作ったり出演したりばっかりで遊べてないな、って意味です。いまは10月18日から彩の国さいたま芸術劇場での『アルトノイ(島地保武+酒井はな)』ダンス公演の音楽制作、アプリの音制作、CMの音楽、フィルの諸々の準備、そしてそして神戸での個展の制作と立て続けにやってくる波に乗るように時間の合間を縫って、僕は愛知へ行ってきました。
あいちトリエンナーレも観たのですが、メインの目的はカンパニーARICA、ベケット原作『しあわせな日々』を観に行く事でした。僕はARICAの公演を初めて初めて観るのですが、今回は舞台美術に金氏徹平、音楽にイトケン、宣伝美術に須山悠里、という自分と所縁のあるメンバーが関わっているということもあって、これは初演に観に行かねばな!という気持ちでしたね。
トリエンナーレも1日だけでしたが、足を運べるところには運んで様々な作品を観てきました。名古屋市美術館(設計が黒川紀章だというのを初めて知りました。朴訥としていて好きな建築なんですよね・・・)や愛知芸術センター、岡崎シビコなど駆け巡りました。中でも青木淳、アルフレッド・ジャー、青木野枝、ワリッド・ラード、向井山朋子+ジャン・カルマン など他にも気になるのもたくさんありました。モンモンと考えることも多かったですが、展示会場が野外でも、美術館でも、古びたデパートでも、環境がそこに在るのは当然ですよね。そういった環境下でも作品力が高いものが心に残りました。何と言うか、「サイトスペシフィック」という言葉はホワイトキューブの中でも在りえることだし、その言葉自体はあまりに基礎的なことなので、例えば「環境を上手に使おう」という指向が感じられると急激に作品が持つ説得力が失いそうだなぁ、なんて思ったりしました。あまり音楽でもフェスや美術フェアなども足を運ぶのが重めの僕ですが、今回は天候が良かったし、歩き回れる国際美術展としては僕は面白かったです。正直な感想だと連日の休み無しで制作だったので、良い気分転換になりました。
夜はARICAでした。会場ではタイチさんや八木良太さんなど関西で会えそうな友達が来ていて、偶然会うっていいなぁって思ったりしました。原作がサミュエル・ベケットなわけですが、ベケットを使った演劇作品って思い出してもパッと出てこなくて、そんなに熱心に劇場へ足を運んでいた輩ではありませんが、僕は学生時代の小演劇場でちょこっと観たり、なぜか池袋の芸劇とかで観た記憶があります。カンパニーはフランスだった気がします。今でもなんで観てたのかが不思議ですが、古典を勉強しなきゃ、みたいな気持ちが当時あったのかなぁ・・・?さて、ARICAのベケットですが、今回の作品のための倉石信乃さんによる新訳のようで、こちらもARICA仕様となっていて、現代的に解釈されているのかな?と期待も膨らみました。会場に入ってまず驚いたのが金氏さんの舞台美術。前回の岡田利規さんとの『家電のように解り合えない』とは全然違う。その違う感じって、何と言うか、遠巻きで見ると混沌としていそうだけど、木材などの有機物が発する偶然性はあるものの、目を凝らせばこらすほど、実はかなり深いコンポジションの元に構成されてました。まずは第一印象で舞台美術に驚いたし、その日観たどの作品よりも彫刻作品とし群を抜いていました。素晴らしかった。この彫刻の凄さを僕は終演にかけて知っていく事になります。このコンポジションの深さは演出の藤田康城さんにもと共通しました。ベケット自体が持つ文学者との一面と精密性の高い演出の解釈まで徹底して藤田さんのこだわりが入っており、それはカンパニーARICAのメンバーの身体性やチームワークの雰囲気までも飲み込み、ミックスされていました。強いコンセプトやセンス高い解釈とは別のレヴェルで完成度の強度を持っており、非常に共感しました。アフタートークが藤田さん、金氏さん、小崎哲哉さんで行われて、作家の声で、その作品に対する姿勢を聞けた事で僕の作品解釈が拡がったのは、やっぱり古典作品にチャレンジする際はアフタートークって、とても大切なことだなぁ、と思ったり。解釈の方法が気になるものですね。
そして、音楽のイトケンさん。全部生で演奏してると聞いて驚きました。もちろんMAXでのアルゴリズム使いつつだと思うんですが。音の面での、会場環境の理解も素晴らしかったし、繊細な職人仕事!とも言うべき丁寧さ。柔らかいサインウェイヴを重ねたハーモニーだったり、演者の手元の動作音を拾っていき、演出的にもなり音楽的にもなっていく音のアンプリファイの方法など。細かい仕事を挙げればキリが無いほどの要所要所で「イトケン印」が押されてました。唸りましたね。素晴らしかった。金氏さん、藤田さん、イトケンさんといい、僕が最近もっとも関心がある、作品と人間の関係や共有ではなく、作家自身が持つ高い技術をそのまま発揮することで結果的に強い表現に繋がっていき、結果それが統制がとれたコンポジションになっていくような形。とても勉強になりました。(←本当に個人的なことを書いてしまった・・・)
夜は Nadegata Instant Party の山城くんと野田さんの新居におじゃまして、翌日はナデガタ作品もじっくり観ました。彼らの素敵な新居もよい場所で、世界くんもスクスクと大きくなってました。彼に子守唄を作曲する約束を果たさなければね。早く書かないと子守唄なんて必要無い年齢になってしまうんだろうし。
そして、昼間にはもう東京に戻ってさっそくフィルの打合せをして、夜はダンス公演の音楽制作と展示のスタディーを整理してと。あっという間にまた制作の日々にカムバックでした。
いまは原宿のVACANTでこれを書いています。「東京の小豆島 小豆島の東京」というイヴェントに参加しています。作本潤哉さんと毛利悠子さんと僕の3人で「滞在制作」の話をちょこっとしました。イヴェントももう佳境です。