アルバム全80曲の解説を松村正人さんが書いてくださいました。
音源を持っている方は、アルバムの理解を深める資料に。
これから音源を聴きたいと思っている方は、アルバムの内容を把握出来る手助けの資料に。

蓮沼執太

松村正人による『windandwindows』全80曲解説

80曲 6枚組CD

  • Title Commission Type Year
  • 1
    windandwindows MORI Building Others 2016

    2年前の5月の大型連休に六本木の商業施設で流した8曲のうちのメインエントランスでかけた曲が本作のオープニング。蓮沼執太らしいエレクトロニクスと生楽器の、考え抜いたアンサンブルで、初夏にぴったりなスティールパンと各種鍵盤の多面的な響き、ハンドクラップや微細な電子音まで、音は重畳するというより空間にたがいに位置を占め、その間を印象的な主旋律が風のように渡っていく、タイトルは作品全体の表題となった。

  • 2
    the unseen Panasonic Beauty CM 2016

    なにげない日々の風景を切り取り色づけるポップソングのアドヴェンチャーを繰り広げた2016年の『メロディーズ』の裏面ないし側面。「unseen」は「目にみえない」「気づかれない」の意で、歌詞の「目を瞑り 開けてみれば (開けてみると)」は普段の生活で見落としているものを暗示するが目を閉じているその間も音だけは耳に届くのであり、ポップミュージックこそ、日常の小さな変化の触媒であるというかのように、ギターの軽快なカッティングに背中を押されたあなたは日々に踏み出していく。

  • 3
    Between Here and There J-WAVE Ending Theme 2014

    2014年半年間のニューヨーク滞在時に制作したラジオ特番のエンディング曲。自身の誕生日である9月11日に未曾有の災禍にみまわれた都市の当時の模様と、そこの暮らすアーティストたちとの対話をもとにしたプログラムに、蓮沼はフィールド録音と、IDM解釈のブリープテクノ(?)と人声の加工ないしシミュレーション、ピアノとマリンバからなるミニマルなトラックを提供し、具体と抽象両面から都市の立体像を描出する。後奏にあたるスティールパンは地下鉄の駅の構内で現地録音、その象徴性が奥深い。

  • 4
    = -instrumental “Miu Sakamoto” Miu Sakamoto Produce 2014

    初プロデュース作となる坂本美雨の2014年のアルバム収録曲のインスト版。まっすぐな歌声が映える原曲の声(とラップ)がお休みすると、バックのアンサンブルが手を替え品を替え楽曲のダイナミクスを担っていたのがよくわかる、職人的ポップトラック。

  • 5
    My Philosophy with kotringo Self Collaboration 2015

    『メロディーズ』では「テレポート」を共作したコトリンゴがこちらではヴォーカルをとった。涼やかなモチーフに引き寄せられるように音が集いファンタジックな情景をひらいていく、さざ波のようなひそやかさの底にたやすく打ち消されない確かさがあるのは(世界観なる常套句ともちがう)この歌詞の世界の把握の仕方がひと役買っているからであろう。

  • 6
    Acoustic County J-WAVE Opening Jingle 2015

    家の近所の接骨院では終日J-WAVEがかかっているのでこの曲は身体に電気を流されながら何度が耳にした。聴くともなしに聴いていたので番組の内容にはたちいらないが、午後のひととき、これからもうひと頑張りというときにぴったりの軽快さを番組タイトルに由来する(であろう)アコースティックなアレンジが演出する。お届けするのはU-zhaanのプレイが電流のようにツボを突くタブラ入り版。

  • 7
    ALMA #30-#40 - Self 2015

    表題の「ALMA(アルマ)」とは、南米はチリのアタカマ砂漠に設置した66台の高性能パラボラアンテナのネットワークによる干渉計方式の巨大電波望遠鏡のこと。収録曲はアルマ望遠鏡の観測データを円盤に突起のついたディスクオルゴール(円筒形のシリンダーじゃないほう)に転写し、それをもとに曲を制作する主旨で11アーティストが参加したオムニバス『MUSIC FOR A DYING STAR』から。蓮沼はオルゴールの音色を重ね、デジタルプロセッシングを施すことで130億後年先の天体から届く130億年前の過去を音楽の時間のなかに置き直す。オルゴールのモチーフとアナログシンセの音色、それを幾多の微細な音が取り巻き織りなすコントラストは人為と永遠の二極を同時に想起させる。パトリシオ・グスマン監督作品『光のノスタルジア』参照のこと。

  • 8
    Tsuuka remix “Kukangendai feat. Hideo Furukawa” Kukangendai Remix 2015

    SNDのマーク・フェルからオヴァルあるいはZs、ヘアスタイリスティックスもしくは宇波拓、コア・オブ・ベルズとかシミラボのOMSBとか湯浅学とか——と結局全員書いてしまいましたが、多士済々参加による非周期的ポストパンクバンド・空間現代のリミックスアルバムへの蓮沼執太の提供曲。原曲は散発と混沌が同居する彼らの2作目のオープニングだが、この曲のリミックスにあたり蓮沼は空間現代のアンサンブルを要素に還元し、小説家・古川日出男の朗読をフィーチャーすることで物語ることばの帯びる力線を通過する推進力に転換する。極限まで拡張したラップとも、ノーウェイブなポエトリーリーディングとも、そのいずれでもない突然変異ともいえる着想と、他者性の拮抗は見事。

  • 9
    Ruru Remix “Dudley Benson” Dudley Benson Remix 2014

    つづけざまにリミックスワーク。ダドリー・ベンソンの2010年作から「Ruru」のリミックスで、アルバムタイトルが『Forest: Songs by Hirini Melbourne』というからには、前の曲とは森つながりということになる。とはいえ肌ざわりは真逆といってよく、ヴォイスパーカッションをふくむ人声を加工変調しながら、ワールドミュージック→エレクトロポップ→ハウス→ブレイクビーツを経巡る周遊コースはきわめてアトラクティブ。

  • 10
    YES -instrumental “Tamaki Roy” Tamaki Roy Produce 2013

    環ROYの4作目より、蓮沼が手がけた「YES」はもともと「Hello Everything」の変奏であり、テンポを落とし、テーマをシンセの和音に割り当てたことで、ラップにぴったりの混みいっていないのにゴージャスなトラックに生まれ変わらせたばかりか、翌年の『時が奏でる』で蓮沼はフィル用にスコアを書き換え、瑞々しく昂揚するメロディを再演している。

  • 11
    Acorn NHK Movie 2016

    地上波各局のなかでも挑戦的なスタンスではテレ東とタメをはるEテレの「すくどう」から、くぬぎのどんぐりができるまでの映像につけた曲で、私の記憶が確かなら同じ番組で教授もダンゴムシに曲をつけていたはずだが、それはさておき、テーマがテーマだけにファニーになるかと思いきや、蓮沼は弾き語りにちかい編成で、U-zhaanのタブラをアクセントに、どんぐりにしっかり感情移入している。

  • 12
    Travelling Melodies J-WAVE Ending Theme 2016

    〈メロディーズ〉ツアーでは、各地で現地のミュージシャンと共同作業を行い舞台で発表してきた。この曲はその模様を取り上げた特別番組のエンディング。旅先での出会いと別れと再会を期する心情をアップテンポなビートと、ウェットになりすぎないメロディで表現している。

  • 13
    Medetai -instrumental “Tamaki Roy” Tamaki Roy Produce 2017

    環ROYの昨年の『なぎ』の掉尾を飾ったタイトルも「めでたい」のインストヴァージョン。もとはフィル用のアレンジがあったものをつくりなおした。特徴的なのは曲なかばのブリッジパートで、これだけだと気の利いたJポップなのを蓮沼はさらに遠くまでモチーフを転がしていく。収録にあたり新たにミックスを施した。

  • 14
    CHANCE Self Others 2018

    今年3月までニューヨークでレジデンスしていたときにできた真っ新な新曲はボカロ的な変調ボイスと打楽器音主体で構成したゴーストポップ。

  • 15
    Birdcalls KIRIN Promotion 2016

    軽快なリズムにのせた口笛と、鳥の声のフィールドレコーディングが都市のなかの自然を想起させる2分弱。蓮沼執太の魅惑の口唇が奏でる口笛が印象的だが、空間の開放性が旋律の気ままさを支えている。ギターはなにげにリンガラ(ルンバ・ロック)っぽい。

  • 16
    Bakemono AOMORI MUSEUM OF ART CM 2015

    いわゆる「ひゅーどろどろ」の現代版。とはいえこちらは幽霊ではなく化け物なのだが。解決しない最後のフレーズは「鉄腕アトム」主題歌の前奏の全音音階っぽくなくないですか?

  • 17
    Daily Life - Self 2015

    鼻歌まじりの日々のオープニング曲。軽快さを強調するアレンジは巧みで、音が次々スキップするようにやってくる。

  • 18
    Friends Zone GYAO! Promotion 2017

    フィラーとは「filler」と書く、いわゆる放送などのつなぎ番組、雑誌などの埋め草を指すが、蓮沼は単に尺を稼ぐというより曲そのものが次のプログラムへのパッセージとなるよう巧みに作曲、音色もアップデートした、こちらは本作用のニューヴァージョンなのであります。

  • 19
    Cool Storage MUJI Promotion 2015

    以下MUJIセクション。ゆったりしたクラップとのっそりしたベースにエレピやウクレレやらが併走し、ときに相前後しつつ遊戯的に絡み合う三分間。ピアノのオブリガートが効いている。

  • 20
    Stroke -alternative MUJI Promotion 2012

    せわしなくも充実した日々を無言劇に仕立てるなら、BMGはこの曲で決まり。短い時間にさまざま場面を盛り込み飽きさせないが、ボイパにはちょっとびっくりするよね。

  • 21
    Smart Theory MUJI Promotion 2016

    一転して折り目正しく。折れ線を描くような音の動きが空間に図案を描くよう。数秒間を置いたあとの〆の打音はダルマに目を入れるみたい。

  • 22
    Simply Fade MUJI Promotion 2017

    クラップとリップアタック音以外はすべてのブクラで制作したという。ブクラとはモートン・サボトニックやシルヴァー・アップルズらの愛用でつとに有名な1960年代生まれのモジュラーシンセ。蓮沼はポリプロピレンの質感になぞらえ音数を切り詰めることで音色とリズムが一体化するアナログシンセの特徴をうまく活かしている。

  • 23
    Mobile Stories MUJI Promotion 2016

    掃除用品の映像のための楽曲。掃除が苦手な私もこの曲を聴くだけで部屋が片付いた気になるのは不思議だが、よくよく考えると家事ほど細やかな動きを伴う行為は日常にそう多くない。はたく、拭く、掃く、片付ける、これら反復する行為の断片を描写し構造化する方法が日用品のシリーズには通底する。

  • 24
    GGG with U-zhaan MUJI Promotion 2015

    MUJIサウンドトラックその1。大きな時間の流れや移動を意識したと蓮沼自身述べるとおりのゆったりしたアンビエントテクノだが、U-zhaanのタブラはインド的な悠久の記号というより響きそのもの。ゆえに常套句に陥らない。

  • 25
    RT -variation MUJI Promotion 2016

    MUJIサウンドトラックその2。間欠的なトラック上で田村玄一のスティールギターが叙情的にタメをつくるダウンテンポ。モノクロームの情景に色をつけるように、音のレイヤーは時間とともに変化する。

  • 26
    It's six of one and half a dozen of the other MUJI Promotion 2017

    MUJIサウンドトラックその3は和声の動きに力感がある。特殊な進行ではないのに印象的なのは、ちょっと後期フィッシュマンズっぽいかからかも。アレンジもふくめ、このような曲をさらっと書けるのが作家としての引き出しの多さでしょう。

  • 27
    Walking on our promenade MUJI Promotion 2017

    響きのデザイン。和声の構成音を少しづつ置き換え、残響をデザインすることで、抑制の効いたリズムが描出する空間の座標内にランダムに立ち現れる音が降りそそぐ。

  • 28
    Folk Songs MUJI Promotion 2015

    上記のアイデアを別アングルから。シンプルな音列を水平、垂直方向に変奏しつつ交錯させながら音の場をつくりだす「ピアノ・フェーズ」の童歌ヴァージョンかしらん。

  • 29
    Drops - Self 2015

    今度はピアノが音の面(幕)をつくり、音色と音量と定位を制御した複数の電子音と対比させることで空間の奥行きをつくっていく。ホロフォニックほど大袈裟はないけれどもヘッドフォンで聴くと効果もひとしおなグッド(サウンド)デザイン。

  • 30
    Handmade musical instrument Workshop in Osaki, Tokyo - Workshop 2013

    ドラム缶を楽器につくりかえたトリニダード・トバコのスティールパンや、戦後米軍統治下の沖縄で生まれたカンカラ三銭など、廃材をもちいた楽器は歴史上いくつかあるが、背景には資材の有効活用より足りなさをいかに補うかという喫緊の課題があり、そのようなときこそ人は音楽を求めてやまない。これは2018年4〜6月の『蓮沼執太: ~ ing』展でも、まさに現在進行形のテーマとして引き継がれる、廃材を音楽化する行為の前段にあたる、大崎の小学校で子どもたちと廃材をもちいて楽器をつくるワークショップ(2013年)で収録した音を曲にしたもので、朴訥でところどころ素っ頓狂だが、手ずから楽器をつくると、ひとは叩く、吹く、奏でることの原点に向き合わざるをえない、生きる歓びとともに。

  • 31
    Raccoon Demo たぬきのまち音楽祭 - 2015

    出演を熱望したもののスケジュールが重複したためかなわなかった「たぬきのまち音楽祭」のための小品のデモ。ジングル名人の面目躍如たるイヤに耳にのこるすばらしいフレーズだが、完成度の何割かは音楽祭のネーミングに由来するという意見に異論はありますまい。三田村管打団?の森本アリとの協働作業による。

  • 32
    ZOU-NO-HANA TERRACE SONG 象の鼻テラス Workshop 2012

    2012年6月16日横浜の象の鼻テラスで子どものためにおこなったワークショップの記念品。音を「みつける」「おどろき」と「よここび」をユーモラスに表現。私たちの身のまわりにはこんなにも音があふれている!

  • 33
    Ride 株式会社TESS CM 2016

    動きを誘うリズムを反復、変奏しながら多層化することで目の前の風景の変化を表した小品。カリンバ(親指ピアノ)のユニークな使用例。

  • 34
    Many Stripes STRIPE INTERNATIONAL INC. Movie 2016

    おそらくブランドイメージなるものは多義的で余白が多い分、人はそこに自分のイメージを重ねるのだろう。ストライプの間の余白たらんとする音楽の在り方。

  • 35
    No Gravity - - 2015

    尻上がり気味の口笛と、スタッカートなピアノとアメリカンクラッカーっぽい物音が浮遊するというより跳ねまわる。テーマは空中庭園だが、目を瞑り瞼に浮かぶは跳躍庭園。

  • 36
    Beauty and Y -instrumental H BEAUTY&YOUTH Movie 2016

    ショップニューオープンの予告映像に、蓮沼自身、環ROYとともに出演したときバックにかかっていた曲のインスト。ターゲットの年齢層を想定し、ラップが乗るのを考えた上で、グルーヴはスムースにトーンはシックに。

  • 37
    Furniture ナフコTWO-ONE STYLE CM 2017

    鼻歌をそのまま曲にしたようなカジュアルさ。パーカッションが裏で細かい芸を聴かせるがそれもまた肩肘張っておりません。

  • 38
    Music for BROWNSALT BROWNSALT Web 2016

    素材を加工し組み合わせる点では、料理と音楽は似ているかもしれない。1分半の時間を美しく盛り付けた音のワンプレート。

  • 39
    351E60TH454 - Self 2018

    日々のシンセサイザーのパッチング(モジュールをつなぐことです)の研鑽と即興の成果。録りためた音源を編集したもの。マテリアルのエディットこそ現代の作曲法の枢要な部分であり、そのとき作曲者は音に内在する志向を読み解くべく神経を傾注する、ということをうかがわせる新曲には、次作以降に芽を吹くに違いないサウンドがいっぱい。

  • 40
    Music for TARO HORIUCHI 2013 S/S TARO HORIUCHI Collaboration 2013

    TARO HORIUCHIはアントワープ王室芸術ロイヤルアカデミーを首席で卒業した堀内太郎によるファッションブランドで、私は2007年だったか、まだ雑誌の編集部にいたころ、彼がいかに有望か同僚に力説されたことがあるが、ブランド発足から数シーズン目で音楽の担当は蓮沼執太になっていた。これが初のタッグ。2013年の春夏で、ピアノ主体の音楽を、との堀内のオーダーに蓮沼はドラムのように聞こえる音までピアノの音(とシンセの電子音)で制作し応えた、脱構築コラボレーション。

  • 41
    Music for RMK x TARO HORIUCHI
    Autumn Winter 2017
    TARO HORIUCHI Collaboration 2017

    旋律の基調はここでもピアノ。曲は複数のテーマをランウェイが経巡るような構成をとるが、緊密なテンションと都会的なモードは一貫。

  • 42
    Music for TARO HORIUCHI 2015 S/S -scene B TARO HORIUCHI Collaboration 2015

    事前に制作した楽曲をショーで流すにあたり、会場の空間の状態との兼ね合いで案配したという2015年春夏用のトラック。曲調はややハウシーでアシッドというには語弊があるがおおよそのところミニマルであり、ダンストラックとしても質が高い。

  • 43
    Music for TARO HORIUCHI 2015 S/S -scene C TARO HORIUCHI Collaboration 2015

    上のアザーサイド。妙齢の私は出だしの感じにトリップホップを思い出したが、インダストリアルリヴァイヴァルに引きつけるべきだったかもしれない。グライムも意識したかも。それにしてもこのふたりは相性がよい。

  • 44
    Music for an Echo altneu Collaboration 2013

    <アルトノイ>「詠う~あなたが消えてしまう前に~」のためのピース。詠う身体を際立たせようと蓮沼は歌う行為を加工する。エコーは本体の残像であり、あなたが消えてもそこにのこる。

  • 45
    Music for JUDAS, CHRIST WITH SOY -scene solo JUDAS, CHRIST WITH SOY Collaboration 2017

    クレジットはないがおそらくライヴ録音であろう。森山未來の単体の身体との音の語らい。わずか1分強の曲だが、そのなかに気配が充満する。

  • 46
    Music for JUDAS, CHRIST WITH SOY -after silence JUDAS, CHRIST WITH SOY Collaboration 2017

    上で「気配」と書いたら、蓮沼のセルフライナーにもそうあった。舞台表現はすべからく気配(存在)の産物だが、音楽がその一端を担うとき、音もまた存在としての態様を示す。

  • 47
    Music for Strange Tales of Love and Strangers -scene 5 映画『恋愛奇譚集』
    (監督:倉本雷大)
    Movie 2017

    倉本雷大監督の『恋愛奇譚集』より。映画や映像の時制への音楽の機能は語り口の補足だろうか。曲は点描的だが、それぞれのパートにキャラクターがあり、たがいに呼応し合っている。

  • 48
    Music for MAKU 水尻自子 Collaboration 2014

    肌ざわりを平面に置き換えるアニメーター水尻自子の映像作品『幕』のための作品はつつんだりめくれたり覆い被さったりする動きを、なめらかな電子音と(分散)和音が表現。映像と一緒だと効果抜群。

  • 49
    Music for Crossing Over NHK Movie 2013

    こちらも水尻作品への提供曲。「ぬげループ」の表題に由来するループ感を、蓮沼は反復の変奏で土に水がしみこむように作品に一体化させている。

  • 50
    Music for Conditions in 2014 Conditions Collaboration 2014

    身体と音楽がともに踊ることは音楽と身体がともに奏でることであり、それには幾通りもの方法があろうが、岩渕貞太のパフォーマンス公演『conditions』で蓮沼は指先の動きにまで気を配るようなピアノ曲で要件に応えている。ニューヨーク滞在中の制作で遠隔的な作業だったというがそうとは思えない。

  • 51
    Music for THREE WORLD -scene 6 THREE WORLD Collaboration 2016

    札幌のモエレ沼公園でのダンス公演「三つの世界」には、かつてマツリそのものだった音楽や儀式を復権する意図があった。公演名は精霊、動物、人間界を意味し、芸術、芸能はそれをつなぐ巫(かんなぎ)となる——との見立てによる楽曲にはアブストラクトなざわめきと不思議なやすらぎがある。

  • 52
    Music for AIR -Main Theme 映画『air』(監督:砂入博史) Movie 2016

    コンボ形式による恬淡としたロックチューンは、砂入博史監督の東日本大震災を取り上げたドキュメンタリー映画『air』のテーマ。滋味がある。

  • 53
    Music for No BGM NO ARCHITECTS Exhibition 2014

    西山広志、奥平桂子が共同主宰する「NO ARCHITECTS」の個展「NO SHOP」に蓮沼が寄せたNOテーマ。「NO」の文字を否定ではなく未然ととらえ、建築とその周辺を思考/試行する彼らの声と演奏をもちいた、今にもほどけそうなショートピース。

  • 54
    Music for NSK TAISO -instrumental NSK Collaboration 2016

    体操といえば何はともあれNHKのラジオ体操だが、それでなければならないわけはないということでNSKとイデビアン・クルーの井手茂太が新しい体操を考案。一方で体操のアイデンティティは、あのイントロだと日本人の誰もがわかっている。蓮沼執太はこの難題を、振り付けに愚直に寄り添いながら、覚えやすく耐用性の高い曲調でクリアしている。

  • 55
    G_P_N -demo - - 2015

    明日までに曲をつくってほしいとのオファーを受けて制作した曲だが、急造とは思えないシャープなかっこよさ。職業音楽家の世界では急な依頼はままあるが、質を落とさないのはさすが。ところで私も明日までこの原稿を書き上げよといわれていますが、はたして日の目をみるのかどうか。

  • 56
    5th Aichi Aichi Triennale 2016 Movie 2016

    「あいちトリエンナーレ」開催のための映像につけた曲はアップテンポのグルーヴに音を抜き差ししながら芸術祭への期待感を煽る、どこか報道番組のオープニングを彷彿するところも。

  • 57
    Communal Music - Sound Installation 2016

    アナログシンセ、プリペアード・ピアノとフィールド録音による作曲作品。あたかも固有の意思をもつように空間に点在した各種音源がしだいに交錯しながら対話を交わすように交響し、やがて静穏な結末を迎える、表題そのものともいえる展開だが表象するのはドラマというより営みであり、総体的に抽象的なのにとても心地よい。

  • 58
    Freezing Point blanClass Exhibition 2016

    いかにバルトやソンタグに戒められようと音楽をことばにするとなるとつい比喩に走ってしまうものだが、ある音を「温かい」とか「冷たい」とか直感する根拠はおそらく音高と響きにある。高く鋭い音は冷たい。蓮沼執太はそれをフェンダーローズだけでつくった。鈴の音に聞こえなくもない。

  • 59
    15 Minutes Eternal J-WAVE SELECTION「SHUTA HASUNUMA MEETS ANDY WARHOL」 Exhibition 2014

    2014年に森美術館で開催したアンディ・ウォーホルの回顧展のためのJ-WAVE特番への提供曲で、展覧会名の英訳であるタイトルはウォーホルの畢竟の名言「誰もが15分間は有名になれる、そんな時代が来るだろう」にちなむ。制作にあたっては、ハウスをベースに複数の形式をマッシュアップし、きっちり15分続くダンストラックに仕立てている。

  • 60
    HT - - 2017

    やわらかな音の拡がりが朴訥としたメロディに蝟集するショートピース。

  • 61
    Keihan 鉄道芸術祭vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車 ~alternative train~ Exhibition 2015

    「鉄道芸術祭vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車 ~alternative train~」展に寄せたフィールド録音。関西を拠点とするサウンドエンジニア西川文章氏との協働作品だが、鉄道の音はやっぱなかなかに魅力的。クリス・ワトソンから鉄ちゃんまで、惹かれてやまないのもムリはない。

  • 62
    windandwindows -Mohri Garden MORI Building Others 2016

    表題曲の変奏。毛利庭園に設置したスピーカーから流れたヴァージョンで、屋外の環境音と共存させるため音数をおさえ、来場者の歩みに沿うようなゆったりめのテンポを、ペダルスティールとスティールパンがさらに引き伸ばす。タブラの打音は鼓や鹿威しみたいだし、訥々としたアンサンブルが呼応する初夏の空の下にいたら、それはそれは気持ちよいでしょう。

  • 63
    Orusuban -instrumental “Akai Ko-en” 赤い公園 Produce 2014

    赤い公園のセカンド・アルバム『猛烈リトミック』収録曲のインストゥルメンタル。ニューヨークから、東京の津野米咲とやりとりしてつくった曲で、3分の2が蓮沼調で、シューゲイジングな残り3分の1は赤い公園印。

  • 64
    Music for th 01 TARO HORIUCHI Collaboration 2018

    TARO HORIUCHI新メンズラインのための曲。ピアノと電子音の点描。ミニマルでタイトなシルエットが目に浮かぶ。抑制のなかにひそませた隠し味のような響きは、モノトーンの基調における色彩のアクセントのよう。そのように音楽から服に飛んでみるのもおもしろい。

  • 65
    Waving Flags
    -instrumental “Miu Sakamoto”
    Miu Sakamoto Produce 2014

    ディスク1の4曲目の収録作品の表題曲、そのインスト版。この指とまれとばかり、曲が進むにつれ音が集まり場を盛り上げる。中域に密集した音はにぎにぎしくもやわらか。

  • 66
    requiem -instrumental “Tamaki Roy” Tamaki Roy Produce 2013

    「そうそうきょく」(葬送曲)とは穏やかではないが、不在を表象するものとしての音楽と考えると得心がいく。トラックはトラップっぽくもあるミディアムテンポで蓮沼らしいメロディセンスをひそめている。サンバを思わせるドラムの音色の選択もいい。

  • 67
    For 3 minutes NISSIN Movie 2014

    食品のための3分間。ジングルっぽく情景はたちまち入れ替わるけれどもトーンは一貫。いつか蓮沼くんとマシュー・ハーバートで料理対決するといいと思うよ。

  • 68
    Music for Yasai no Hi -version1
    with Takako Minekawa
    J-WAVE Sound Logo 2016

    サウンドロゴ詰め合わせ、6タイトル分。声は嶺川貴子。しゃべるのと歌うのの中間もしくは両方。日本語の奥深さというか奥ゆかしさというか。

  • 69
    Music for Yasai no Hi -version2
    with Takako Minekawa
    J-WAVE Sound Logo 2016
  • 70
    Music for Yasai no Hi -version3
    with Takako Minekawa
    J-WAVE Sound Logo 2016
  • 71
    Music for Yasai no Hi -version4
    withTakako Minekawa
    J-WAVE Sound Logo 2016
  • 72
    Music for Yasai no Hi -version5
    with Takako Minekawa
    J-WAVE Sound Logo 2016
  • 73
    Music for Yasai no Hi -version6
    with Takako Minekawa
    J-WAVE Sound Logo 2016
  • 74
    jiyu-ni -instrumental “Negicco” Negicco Produce 2015

    私はアイドルにうといのを前提にお聞きいただきたいが、アイドルという存在そのものへの批評ぶくみの表現が持ち味の彼女らに、蓮沼は自由に振る舞えるスペースを編曲で楽曲に織り込んでいる。コール&レスポンス&自由に疾走。ライヴ映えしそう。

  • 75
    Music for JUDAS, CHRIST WITH SOY -scene Transition to Stairs JUDAS, CHRIST WITH SOY Collaboration 2017

    Disc 3の6、7曲目と同じ演目から。音の重量(感)の差異で空間の奥行きをあらわしている。

  • 76
    Music for AIR -scene drive 映画『air』(監督:砂入博史) Movie 2016

    3枚目の11曲目と同じく『air』の作中で使用した音源のフルヴァージョン。石塚周太(G)、イトケン(Dr, Per)と、蓮沼がシンセサイザーを担当した即興演奏で、デイヴィッド・シルヴィアンの『ブレミッシュ』にジェイミー・ミューアーが参加したかのような……というのは半分私の妄想ですけれどもね。

  • 77
    Disappearance - - 2016

    世に出なかったオケのオクラだし。霞が立ち込めるようにトラックをつくったという。ここに本来なら歌が乗るはずだが、これはこれできっちり漂うように成立している。

  • 78
    Music for BACON ICE CREAM 奥山由之写真展
    『BACON ICE CREAM』
    Exhibition 2016

    奥山由之の写真展の会場に設けたとあるスペースで流すための曲で、冷蔵庫のような音響を意図したそう。本人はあまり冷蔵庫っぽくなかったといい、確かにいささかスペーシーではあるものの冷蔵庫といわれるとそう聞こえるから不思議。『蓮沼執太: ~ ing』展でも蓮沼は段ボールから音が鳴る作品をつくっており、四角い形と相性がよいのかもしれない。

  • 79
    5windows eb -alternative 瀬田なつき Movie 2015

    会場にスクリーンを分散し、観客をそれらをめぐり鑑賞する、エクスパンデットシネマともハンドメイドARともいえる作品に音をつけるのは、あたりまえの映画音楽とも違ったやり方が必要になる。本作は来るべき表現形式に向けてのひとつの試みであり、必然的にメディアアートの文脈にも接続する。2015年の第7回恵比寿映像祭で上映した瀬田なつき監督作品『5windows eb』のための作曲作品。

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    Music for SHISEIDO THE STORE SHISEIDO Others 2018

    今年はじめにグランドオープンした銀座の総合美容施設「SHISEIDO THE STORE」の各フロアに流れている音のマテリアルを再編した1時間ちかい長尺曲で、かつてコペルくんがビルの屋上から見下ろした道行く人たちのように多様だがひとつのまとまりをもった音や声(山崎阿弥)が、ときにリズムの形式を借りて進みゆく、その全体を外側から鑑賞するというより、ただなかにいて感じるのは、ちょうど花椿通りを挟んだ隣の資生堂ギャラリーでこの原稿を書いている現在開催中の蓮沼の個展『蓮沼執太: ~ ing』とも響き合う感覚、つまりいまここで立ち上がり組織する音の気配と色彩であり、『windandwindows』のこの6枚のCDこそ、ここ数年の蓮沼のそれらへの取り組みを俯瞰する窓としてうってつけなのは益子樹の秀抜というほかないエンジニアリングによるところ大だが、蓮沼執太はここからすでに先に進みはじめ、その歩みはおそらくとどまることはないであろう。

松村正人(まつむらまさと)

1972年奄美生まれ。批評と編集。雑誌「tokion」「Studio Voice」編集長を経て2009年より無所属。共編著に『捧げる 灰野敬二の世界』『山口冨士夫 天国のひまつぶし』など。監修書に「ele-king」「別冊ele-king」など。現在書き下ろしの新刊を準備中。ロックバンドの湯浅湾のベース奏者。