小野島大による批評(Disc3)
広がりと奥行きのある音像。拙宅のオーディオ装置は音がぐいぐいと前に出てくるタイプで、決して空間表現に長けている方ではないが、それでも眼前に展開される音は、そっと柔らかく、滲むように広がり漂っていく。後ろにスピーカーなどないのに、そっと音に包まれるような感覚がある。遠い昔の昼下がりの音楽室から遠く聞こえてくるピアノの微かな反響音、廊下を駆けていく少女の声、床の軋むノイズ。ある種ノスタルジックな響きをたたえた音空間の優しい響きに、しばし陶然とする。
10数年前ぐらいから、音楽の捉え方の概念が少し変わってきた感触がある。メロディやリズムやハーモニー、各楽器のアンサンブルによるアレンジの構造といった要素と共に、あるいはそれ以上に、音の鳴り方、響き方、存在感や立体感、手触りといった音響のテクスチャーが重視されるようになってきた。鳴っている音ががすべてではなく、音が鳴っていない空間にどんなニュアンスを込められるか。そしてそれを感知できる耳を育てることができるか。それは音楽家にとっての価値観の転換であると同時に、聞き手にとっても重要な今日的課題なのである。
蓮沼執太はそうした音楽の概念の変容の中で、コツコツと誠実に作品を積み重ねてきた。この6枚組コンピレーション『windandwindows』は、そんな蓮沼の6年間の軌跡を凝縮した作品集だ。私に課題として与えられたディスク3の17曲だけでも驚くほど多彩で多様な楽曲が並ぶが、いずれも実験精神に富み、清冽でキリリとしたたメロディ感覚と、繊細な手つきで編まれた音響デザインは共通している。これだけの多作なのに弾きっぱなし、作りっぱなし、鳴らしっぱなしの雑な仕上げの曲がひとつもない。「Music for Conditions in 2014」は岩渕貞太のダンス・パフォーマンスのための曲だが、その柔らかく頬を撫でるようなテクスチャーは、まるで曲それ自体が身体を伴って舞い踊るような、そんなヴィジュアル・イメージを幻視させるのだ。その光景は夢を見るように美しい。
小野島大
Disc3 収録曲一覧
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Title Commission Type Year
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40Music for TARO HORIUCHI 2013 S/S TARO HORIUCHI Collaboration 2013
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41Music for RMK x TARO HORIUCHI
Autumn Winter 2017 TARO HORIUCHI Collaboration 2017 -
42Music for TARO HORIUCHI 2015 S/S -scene B TARO HORIUCHI Collaboration 2015
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43Music for TARO HORIUCHI 2015 S/S -scene C TARO HORIUCHI Collaboration 2015
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44Music for an Echo altneu Collaboration 2013
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45Music for JUDAS, CHRIST WITH SOY -scene solo JUDAS, CHRIST WITH SOY Collaboration 2017
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46Music for JUDAS, CHRIST WITH SOY -after silence JUDAS, CHRIST WITH SOY Collaboration 2017
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47Music for Strange Tales of Love and Strangers -scene 5 映画『恋愛奇譚集』
(監督:倉本雷大) Movie 2017 -
48Music for MAKU 水尻自子 Collaboration 2014
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49Music for Crossing Over NHK Movie 2013
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50Music for Conditions in 2014 Conditions Collaboration 2014
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51Music for THREE WORLD -scene 6 THREE WORLD Collaboration 2016
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52Music for AIR -Main Theme 映画『air』(監督:砂入博史) Movie 2016
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53Music for No BGM NO ARCHITECTS Exhibition 2014
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54Music for NSK TAISO -instrumental NSK Collaboration 2016
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55G_P_N -demo - - 2015
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565th Aichi Aichi Triennale 2016 Movie 2016