柴 那典による批評(Disc1)

 蓮沼執太の膨大な仕事をまとめた『windandwindows』。様々なジャンルとフィールドを横断する彼の音楽だが、それをまとめて聴いていると、まるで合気道の達人の繰り出す技を見ているような清冽な気持ちになる。アーティストや企業や場所や、様々な相手から投げかけられるお題に、ときに人懐っこいメロディで、ときに緻密な音色の構築で、そして常に懐の広い音楽的な発想で応える。だからアウトプットは多彩だけれど、そこには一つの軸が通っている。他者との、あるいは社会とのインタープレイ。そこに淀みや濁りのようなものを感じさせないのが、僕の思う蓮沼執太の魅力だ。
 『windandwindows』のdisc1は、彼の仕事の中でも、やさしく柔らかな手触りを感じさせる楽曲が中心に収録された一枚。都市生活に寄り添った音楽というイメージもある。六本木ヒルズで開催されたイベントのBGMとして作曲された「windandwindows」や、J-WAVE(この放送局も六本木ヒルズにある)で彼が担当した番組のために作られた「Acoustic Country」や「Travelling Melodies」などの楽曲が収録されていることもその一因にあるのかもしれない。歌心を感じさせる曲が多いのも特徴で、彼自身が歌う「the unseen」は『メロディーズ』で展開したポップ・ミュージックとしての洒脱な振る舞いに通じるテイスト。他にも坂本美雨や環ROYに提供した楽曲のインストゥルメンタルバージョン、コトリンゴとの共作曲など、彼が持つ様々な音楽性の中でポップスとしての側面を展開する楽曲が並んでいる。ただ、それだけに空間現代と小説家の古川日出男のコラボをリミックスした「Tsuuka remix Kukangendai feat. Hideo Furukawa」の異色さも際立つ。この曲での古川日出男のビリビリと感電するような叫びと呼応するのも、やはり蓮沼執太の音楽家としての懐の広さだ。

柴 那典

柴 那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「日経 MJ」にてコラム「柴那典の新音学」連載中、「cakes」と「フジテレビオンデマンド」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。
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Disc1 収録曲一覧

  • Title Commission Type Year
  • 1
    windandwindows MORI Building Others 2016
  • 2
    the unseen Panasonic Beauty CM 2016
  • 3
    Between Here and There J-WAVE Ending Theme 2014
  • 4
    = -instrumental “Miu Sakamoto” Miu Sakamoto Produce 2014
  • 5
    My Philosophy with kotringo Self Collaboration 2015
  • 6
    Acoustic County J-WAVE Opening Jingle 2015
  • 7
    ALMA #30-#40 - Self 2015
  • 8
    Tsuuka remix “Kukangendai feat. Hideo Furukawa” Kukangendai Remix 2015
  • 9
    Ruru Remix “Dudley Benson” Dudley Benson Remix 2014
  • 10
    YES -instrumental “Tamaki Roy” Tamaki Roy Produce 2013
  • 11
    Acorn NHK Movie 2016
  • 12
    Travelling Melodies J-WAVE Ending Theme 2016
  • 13
    Medetai -instrumental “Tamaki Roy” Tamaki Roy Produce 2017
  • 57
    Communal Music - Sound Installation 2016
  • 58
    Freezing Point blanClass Exhibition 2016
  • 59
    15 Minutes Eternal J-WAVE SELECTION「SHUTA HASUNUMA MEETS ANDY WARHOL」 Exhibition 2014
  • 60
    HT - - 2017
  • 61
    Keihan 鉄道芸術祭vol.5 ホンマタカシプロデュース もうひとつの電車 ~alternative train~ Exhibition 2015
  • 62
    windandwindows -Mohri Garden MORI Building Others 2016
  • 63
    Orusuban -instrumental “Akai Ko-en” 赤い公園 Produce 2014
  • 64
    Music for th 01 TARO HORIUCHI Collaboration 2018