例えば「Waving Flags –instrumental “Miu Sakamoto”」と「Music for AIR –scene drive」が同じ作家／演奏家の録音として１枚のディスクに収録されていることは、あらためて考えても信じがたい。一方は、このディスク５の冒頭を心地よく飾る柔らかなポップ・インストゥルメンタル（ここでの気持ちよく跳ねる伊藤大地のブラシワークの軽やかさといったらない）、他方は間欠的に尖った音が鳴らされるシリアスな即興演奏（映画『air』のサウンドトラック）。さらに、その間には嶺川貴子の少し舌ったらずで美しい産毛の生えた声とその抑揚に沿ったバリエーション豊かな数秒のサウンドロゴが並び、無機質な低音が左右に動いていくサウンドアート「Music for BACON ICE CREAM」のような曲もある。
　このディスク５に限っていえば、2013年〜2017年と制作年もしくは発表年に幅があるし、この１枚だけをもってしてひとつの通底するテーマを引き出すことは難しいだろう。だが、だからといってとっ散らかった印象もない。
　一歩下がって眺めてみると、そこにあるのは彼の語彙力の豊かさ、検索力の速さ。さらにいえばひとつひとつの音のレスポンスの良さ、快活さといったものだ。そして、彼が見つけてつまみあげ、磨きをかけた音たちの運動神経の良さ。特に感じたのは、彼はそれらの音を組み合わせて楽曲を構成していくというよりも、それらの音たちが自由に動き回れるスペースそのものを、まるで公園や広場の設計者のような視点でしつらえているのではないかということだった。
　映画や演劇、展示のために提供した、一聴、即興的にも聴こえる演奏・楽曲の方にこそ繊細な注意を払い、つくり上げようという意思や格闘が透けて見え、ポップな楽曲の方でこそ、より「自由に」その風通しの良さを極めていく。この器用さや判断力の確かさは彼を苦しめることになりやしないかとも危惧するが、空に溶けていく口笛の音を聴けばそれも杞憂にすぎないのだろう。
　最後に、本盤には蓮沼執太のボーカルは収められていないが、私は個人的に彼の歌声が大好きであることを一筆つけ加えておきたい。

福田教雄